「空飛ぶクルマ」と聞くと、まだ少し未来の乗り物という印象がある。
2025年の大阪・関西万博でも目玉の一つとして期待されたが、当初構想されていた乗客を乗せた商用運航は実現せず、デモ飛行となった。
ところが、その後の動きを追ってみると、空飛ぶクルマは頓挫したどころか、いよいよ「量産して客を乗せる」段階に近づいている。
「クルマ」だけど道路は走らない
「空飛ぶクルマ」という名前から、道路を走る自動車がそのまま空へ飛び立つ姿を想像するかもしれない。ところが、現在実用化が進んでいる「空飛ぶクルマ」は、基本的に道路を走らない。
開発の中心は「eVTOL(電動垂直離着陸機)」と呼ばれる小型航空機だ。「クルマ」という名称は、自動車そのものというより、日常的な移動に使える身近な乗り物を目指すという意味合いで使われている。
「垂直離着陸」と聞くと、オスプレイを思い浮かべる人もいるかもしれない。オスプレイもローターの向きを変え、垂直飛行から水平飛行へ移る。Jobyの機体も、6基の電動プロペラの向きを変えて垂直離陸から水平飛行へ移行する点では、発想に共通するところがある。
Joby S4は、パイロット1人と乗客4人の5人乗り。最高速度は約320km/h、航続距離は約160kmで、都市間を結ぶ「空飛ぶタクシー」としての利用が想定されている。
トヨタが「量産」に乗り出した
注目したいのがトヨタ自動車の動きだ。
トヨタは以前から米Joby Aviationに出資し、資金だけでなく、生産技術や部品供給でも協力してきた。
そして2026年6月30日、両社はさらに一歩踏み込み、eVTOLの商用生産に向けた合弁会社を設立した。出資比率はトヨタ51%、Joby49%。Jobyの航空機開発技術に、トヨタが自動車で培った生産方式や品質管理を組み合わせ、将来の生産拡大に備える。
トヨタは「空飛ぶクルマに出資する会社」から、その量産を支えるプレーヤーへ踏み込んだことになる。
すでに「飛ぶかどうか」の段階ではない
Jobyは2026年8月5日、米連邦航空局(FAA)による型式証明プロセスで、5段階のうち最後の第5段階がこれまでで最も大きく進展したと発表した。
現在5機が飛行し、さらに12機を生産中。米政府が進めるeVTOLの実証プログラムでは、2026年中に最初の乗客を乗せることを目標としている。
課題はもはや「本当に飛べるのか」だけではない。
航空機として安全性の認証を取得できるか。量産できるか。離着陸場をどこにつくるのか。そして料金を、利用者が現実的に使える水準まで下げられるか。
開発競争は「実験」から「事業化」へ移りつつある。
日本ではいつ乗れる?
日本ではANAホールディングスとJobyが提携し、100機以上を展開する計画を掲げている。
ANA側は、日本でのエアタクシーサービスについて2027年度以降、まず東京で開始し、その後、関西圏、全国へ展開する構想を示している。
国も2026年3月、「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂した。万博後を見据え、空飛ぶクルマを実証段階から社会実装へ進めるための制度や運航環境の整備が続いている。
万博では「未来の乗り物」だった空飛ぶクルマ。
それからわずか1年。トヨタは量産体制づくりに入り、Jobyは認証の最終段階まで進んだ。
次に問われるのは「飛ぶか」ではない。
いつ、いくらで、私たちが乗れるのか。
空飛ぶクルマは今、夢の乗り物から交通サービスへ変わる、その境目にいる。
参考資料
- トヨタ自動車「Joby Aviation and Toyota Motor Corporation Launch Initial Phase of a Strategic Manufacturing Alliance to Realize Air Mobility for All」(2026年6月30日)
https://global.toyota/en/newsroom/corporate/44579871.html - Joby Aviation「Joby Reports Second Quarter 2026 Financial Results」(2026年8月5日)
https://www.jobyaviation.com/news/joby-reports-second-quarter-2026-financial-results - ANAホールディングス/Joby Aviation「ANA Holdings, Joby Plan to Accelerate Air Taxi Deployment in Japan」(2025年8月5日)
https://www.anahd.co.jp/group/en/pr/202508/20250805-3.html - ANA『翼の王国』「万博の空に描く美しき8の字…“空飛ぶクルマ”がテイクオフ! 2027年 ANAが実現目指す『エアタクシーサービス』」(2025年8月27日)
https://tsubasa.ana.co.jp/ana-report/ana-joby/ - 国土交通省「空の移動革命に向けたロードマップを改訂しました~空飛ぶクルマの社会実装に向けて~」(2026年3月27日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000304.html - 2025年日本国際博覧会協会「『空飛ぶクルマ』デモフライトスケジュール及び機体特別公開イベントについて」(2025年9月4日)
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20250904-06/


